「横溝正史怪奇探偵小説傑作選 丹夫人の化粧台」(横溝正史)

系統的な「横溝正史全集」の登場を待つ

「横溝正史怪奇探偵小説傑作選
  丹夫人の化粧台」
(横溝正史)角川文庫

いつも疑問に思っています。
乱歩の場合は
光文社文庫版「江戸川乱歩大全集」
全30巻が決定版的な全集として
存在しています。
小説全作品だけでなく、
乱歩自身が執筆した作品解説等まで
収録されています。
しかも文庫本であるため、
一般人でも手軽かつ容易に
購入することが可能です。
しかし横溝正史には
そうした体系的な全集が
未だ存在していないのです。
一昨年から刊行されている柏書房の
「横溝正史コレクション」も
十分なものとはいえず、残念です。

一番願っていることは、
旧角川文庫版が復刻されることです。
それも未収録の作品を含め、
横溝全作品を
⑴金田一耕助シリーズ、
⑵由利・三津木コンビシリーズ、
⑶名探偵の登場しない作品、
⑷人形佐七を含む時代物、
⑸ジュヴナイル作品、の5つに大別し、
それぞれを事件の時系列、
もしくは作品発表順に
編集し直した上での復刊です。
もちろん表紙は杉本一文装幀。
旧角川文庫版の表紙を
原則踏襲しながら、
いくつか精細さに欠く画については
差し替える等の処置があれば
いうことありません。

そんなことを考えていた最中の
昨年11月に出版されたのが本書です。
杉本一文の新しい画です。
喜びました。
しかし…、
巻末の解説を読み、悲しくなりました。
「面影草紙」以降の耽美ミステリ、
 「鬼火」「蔵の中」「かいやぐら物語」
 「蠟人」などを一挙に収録した
 角川文庫版「鬼火」が衆目の一致する
 ベスト作品集ということに
 なるだろう。だが、この短編集は
 「蔵の中・鬼火」として本書に先駆けて
 復刊されることが決まっていた。
 そこで同書との重複を避け、
 戦前の短篇から
 怪奇的な雰囲気の作品十四篇を
 選んだのが本書なのである。」

ベスト作品集?
もしかして新角川文庫版では、
金田一や由利・三津木もの以外の
戦前短編集は
復刊するつもりがないのか?
それはあんまりでしょう。

せっかく未収録短編集として
これまで「双生児は囁く」
「喘ぎ泣く死美人」の2冊を刊行し、
いよいよ戦前戦後短編集の復刊かと
待ち望んでいたのですが、
残念でなりません。

出版事業が厳しい局面を
迎えているのはわかります。
横溝作品がかつてのように
若い人たちに受け入れられていない
現実も承知しています。
しかし、そうした形で
日本ミステリの偉大なる文化の一つが
消え去るのは看過できません。
系統的な「横溝正史全集」の出版を
強く要望する次第です。

(2019.5.26)

Pete LinforthによるPixabayからの画像

【収録作品一覧】
※クリックで各記事にジャンプします。
「山名耕作の不思議な生活」
「川越雄作の不思議な旅館」
「双生児」
「犯罪を猟る男」
「妖説血屋敷」
「面(マスク)」
「舌」
「白い恋人」
「青い外套を着た女」
「誘蛾燈」
「湖畔」
「髑髏鬼」
「恐怖の映画」
「丹夫人の化粧台」

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